10月、気になる展示
東京はここしばらく雨が続いています。
こんなに雨の日が続くと、でかけるのも少し億劫になります。
でも、展示は待ってくれません。晴れてから行こうと思っているうちに、終わってしまうかもしれない。
作家たちは、この日のために長い時間をかけて準備を進めています。
雨くらいで、見に行かない理由にはしたくはない。
本には本のよさがあります。
でも、筆のタッチや、印画紙の反射、手を動かした痕跡、作品の大きさや空間との距離まで含めて、作品をいちばん鮮度よく経験できるのは、やっぱり展示なのかもしれません。
美術館やギャラリーには、本では触れられない世界があります。
強度のある作品を、熱量のこもった空間で体感する。
そんなことを思いながら、10月に見に行きたい展示をまとめました。
まずは、会期が迫っている写真展から。
中井菜央「ゆれる水脈」
会期終了間近|10月4日(日)まで
2026年9月11日(金)―10月4日(日)
ふげん社|目黒
『ゆれる水脈――写真 表象のさきに』(みすず書房)の刊行を記念して開催される、中井菜央の個展。
中井菜央さんの作品は、これまでまじまじと見たことがありませんでした。でも、この前友達がおすすめしてくれて、急に気になる存在に。
10月に入るとすぐに終了してしまうので、今回はかなり急いで見に行きたい展示です。
写真を見ること、写真について考えることが、一冊の本と展示という二つのかたちでどうつながっているのかも気になります。
中井菜央「海の緒」
2026年9月12日(土)―10月11日(日)
POETIC SCAPE|中目黒
同じく中井菜央の個展「海の緒」。
こちらも10月前半まで。
ほぼ同じ時期に、ふげん社とPOETIC SCAPEという二つの場所で中井さんの展示を見ることができるので、できれば続けて見てみたい。
同じ作家の仕事が、それぞれの空間でどう見えるのか。その違いも含めて気になります。
T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026
2026年10月3日(土)―10月26日(月)
八重洲・日本橋・京橋・銀座エリア
10月の東京では、今年もT3 PHOTO FESTIVAL TOKYOが開催されます。
今年のテーマは、写真がみせる「と」の世界。
「自分と他者」「自然と都市」のように、何かと何かのあいだにある関係を、写真を通して考えていく24日間です。街の屋内外に会場が点在し、歩きながらさまざまな写真に出会えるのもT3のおもしろいところ。
美術館やギャラリーを一つ見て帰るのとは少し違って、街を移動しながら写真を見る一日になりそうです。
そして今年は、見る側だけではありません。
T3 BOOK MARCHÉ 2026
2026年10月17日(土)・18日(日) 11:00―19:00
TOFROM YAESU|八重洲
入場無料
今年はSTAIRS PRESSと文福で出展します。
STAIRS PRESSの刊行物に加えて、文福からも一部の商品を持っていく予定です。
いつもはオンラインで紹介している本を、実際に手に取って見てもらえる機会になります。
どんな本を持っていくかは、当日のお楽しみに。
展示を見て、本を見る。
写真が壁にあるときと、本の中にあるとき。その両方を行き来できる週末になりそうで、こちらも楽しみにしています。
T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2026
T3 BOOK MARCHÉ 2026
藤岡亜弥「Forget Me Not」
2026年10月14日(水)―11月29日(日)
BUG|東京
藤岡亜弥の新作個展「Forget Me Not」。
9年前、オーストラリア・メルボルンに住む女性から届いた一通のDMをきっかけに、ある日本人女性の存在をめぐって制作された新シリーズです。今回は藤岡さんにとって初めての映像作品も発表されます。
藤岡さんは、土地や人を撮りながら、その場所に残されている記憶や時間をたどっていく写真家。
今回も、一つの出来事を追っていくうちに、写真がただ記録するものから、何かを解き明かしていくものへ変わっていく。その過程を展示空間で見てみたいです。
入場無料なのもうれしいところ。
吉田璋也のデザイン―新作民藝運動がめざした未来
2026年10月15日(木)―12月20日(日)
パナソニック汐留美術館|汐留
吉田璋也について初めて知ったのは、鎌倉にある民藝店の軒先に置かれていた一脚のベンチでした。
とてもシンプルなのに、妙に趣がある。気になって聞いてみると、それが吉田璋也のデザインしたベンチの複製だと知りました。
そこから名前を知り、少しずつ気になる存在になった人です。
吉田璋也は、医師として働きながら鳥取を拠点に新作民藝運動を展開し、陶芸、木工、染織、金工などの分野で新しい民藝をデザインしました。
気になるのは、物をデザインするだけでなく、「どうつくり、どう届けるか」まで考えていたこと。
あのベンチから始まって、今回の展示で吉田璋也という人の仕事をもう少し立体的に知れたらと思っています。
水島貴大「環島回憶錄 / Memoirs of Huandao Taiwan 2020-2025」
2026年10月16日(金)―11月28日(土)
KOSHA KOSHA AKIHABARA|秋葉原
水島貴大の新しい写真集『環島回憶錄 / Memoirs of Huandao Taiwan 2020-2025』の出版記念展。
2020年に台湾へ移住して撮影を始め、帰国後も往来を続けながら、約6年にわたって台湾全土を巡り撮影した作品です。
タイトルの「環島」は、台湾を一周する旅を指す言葉。
土地を巡り、そこで暮らす人たちと関わりながら、自分自身の居場所をつくっていくような時間が写真に積み重なっています。
水島さんはこれまで、東京・大田区を撮影した『Long Hug Town』など、街とそこに生きる人を主題に作品をつくってきました。
場所が東京から台湾へ移っても、街のなかへ入り込み、人との距離を少しずつつくりながら撮る姿勢はつながっているように思います。
写真集は赤々舎から刊行。544ページ、図版594点というかなりのボリューム。展示と本の両方を見てみたいです。
会期中には、水島貴大×有元伸也、水島貴大×蓮井元彦×池谷修一、水島貴大×田中佑典によるトークイベントも予定されています。
KOSHA KOSHA AKIHABARA|水島貴大「環島回憶錄」
志賀理江子「なぬもかぬも」
2026年10月31日(土)―2027年3月14日(日)
青森県立美術館|青森
志賀理江子の大規模な個展。
震災前から志賀がその身でたどってきた「東北」への洞察から生まれた写真、映像、テキスト、インスタレーションを、新旧織り交ぜながら紹介する、作家にとって過去最大規模の展覧会です。
志賀さんの作品は、目の前にある風景を記録するというより、その土地に積み重なっている時間や、人の記憶のようなものまで写そうとしているように感じます。
かなり見に行きたい展示。
青森なので簡単ではないけれど、会期は来年3月まで。時間をつくって行ければと思っています。
多田美波―光、凛と ゆれる
2026年8月29日(土)―12月6日(日)
東京都現代美術館|清澄白河
戦後日本の抽象彫刻を代表する多田美波の仕事をたどる展覧会。
ステンレスやガラス、アクリルなどの素材を用いながら、光そのものを作品の一部として扱ってきた作家です。
写真で見るだけではわかりにくい、素材に光が当たり、周囲の空間まで変化して見える感覚を実際に見てみたい。
彫刻だけでなく、照明や建築空間に関わる仕事まで見られるのも気になります。
路上、お邪魔ですか?
2026年9月19日(土)―11月23日(月・祝)
渋谷区立松濤美術館|渋谷
街を歩きながら、建物や看板、路上に残されたもの、誰かが手を加えた痕跡を見つけていく。
普段ならそのまま通り過ぎてしまうようなものを、立ち止まって見る。
そういう視点は写真にもかなり近いと思います。
都市を歩いていると、用途のわからないものや、誰かの生活の痕跡のようなものについ目がいくので、この展示はかなり気になっています。
水滸伝
2026年9月19日(土)―11月8日(日)
東京ステーションギャラリー|丸の内
中国の物語『水滸伝』が、時代や場所を越えてどのように描かれてきたのかを見る展覧会。
中国美術から版本、浮世絵、漫画、現代美術まで、さまざまな作品や資料から『水滸伝』の世界を見ることができます。
同じ物語が、時代ごとにどう絵になり、出版物として広がっていったのか。
特に歌川国芳の水滸伝ものは、版画と出版の関係を見る意味でも気になります。
土門拳写真展「衣文の美〜古寺巡礼より」
2026年9月4日(金)―11月7日(土)
東京工芸大学 写大ギャラリー|中野坂上
土門拳『古寺巡礼』の仏像写真を、「衣文」という視点から見る展示。
衣文とは、仏像などに表された衣服の襞やしわのこと。
写大ギャラリーが所蔵する土門拳コレクションから、『古寺巡礼』に収録された仏像写真に焦点を当てています。
仏像全体ではなく、その表面に刻まれた線や布の動きに注目して見ることで、土門拳の写真もまた違って見えてきそうです。
『古寺巡礼』は知っていても、こういう細部から見直す機会はあまりないので、行ってみたい。
銅版画家・駒井哲郎 掌上にひろがる星座のように
2026年9月12日(土)―11月15日(日)
神奈川県立近代美術館 葉山|神奈川
駒井哲郎の没後50年を記念した展覧会。
初期から晩年までの作品に加えて、油彩、挿絵原画、銅原版、制作道具、写真なども紹介されます。
完成した作品だけでなく、版や道具まで見られるのがうれしい。
自分でも版画をつくっていると、どうしても「何を使って、どう刷ったのか」というところまで見たくなります。
葉山まで行く理由としては十分です。
すみだ五彩の芸術祭
2026年9月4日(金)―12月20日(日)
墨田区各所|東京
墨田区のさまざまな場所を舞台に行われる芸術祭。
今回とくにおすすめしたいのは、風間サチコ「いしふみのかげふみ」。
風間さんは木版という古い技法を使いながら、近代日本の歴史や社会、都市の記憶に触れる作品をつくってきた作家です。
自分でも木版画をつくっているので、作品そのものはもちろん、彫りや刷りの痕跡を実際の距離で見られるのも楽しみです。
芸術祭全体を巡るというより、まずは「碑のかげふみ」を目的に見に行きたいと思っています。
全部を見るのはなかなか難しい。
でも、画面や本だけではわからないものを確かめるために、わざわざその場所まで出かける。
その時間も含めて、展示を見ることなのだと思います。
見られるうちに、見に行きたい。